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不動産売却で取得費不明の場合の調べ方・計算方法を解説!注意点も

いつも当レポートをご愛読いただきありがとうございます。今回は「不動産売却で取得費不明の場合の調べ方・計算方法」について触れてみたいと思います。

不動産を売却する際、譲渡所得税の計算に必要な「取得費」。しかし、古い物件や相続物件の場合、この取得費が分からないケースは少なくありません。本記事では、取得費が不明な場合の調べ方や計算方法、そして大きな節税につながる可能性のある対処法を詳しく解説します。

不動産売却時の取得費とは?

不動産の売却時に必要となる取得費は、譲渡所得税を計算する上で必要な税金のことです。取得費が適切に計算されないと、必要以上の税負担が生じる可能性があるため、できる限り正確な把握が求められます。特に高額な不動産の場合、取得費の違いが数百万円の税額の差となって表れることもあるため注意しましょう。ここでは、譲渡所得費の概要や所得費に含まれるものについて詳しく解説します。

譲渡所得とは?

譲渡所得は、不動産などの資産を売却した際に生じる利益のことを指します。計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
この譲渡所得に対して、以下の税率で課税されます。
所有期間5年超(長期譲渡所得):所得税15% + 住民税5% 所有期間5年以内(短期譲渡所得):所得税30% + 住民税9%
なお、この税率は譲渡所得から特別控除額を差し引いた後の金額に適用されるものです。特別控除には、居住用財産の3,000万円控除や空き家の3,000万円特別控除などがあり、条件を満たせば適用できます。

取得費に含まれるもの

取得費には不動産の購入価格だけでなく、所得に関連するさまざまな費用が含まれます。たとえば、契約書作成費用や不動産仲介手数料が代表的なものです。また、不動産取得税や登録免許税といった税金も取得費に含めることができます。さらに、取得後に行った改良工事や増改築の費用も、一定の条件を満たせば取得費として認められるでしょう。

また、建物の取り壊し費用も取得費に含まれますが、これは更地にして売却する場合に限られます。建物を残したまま売却する場合は、譲渡費用として扱うため注意が必要です。

このように取得費として認められる範囲は広いものの、修繕費や固定資産税、火災保険料などの費用は含めることができません。これらの費用を適切に把握し計上することで、譲渡所得の正確な計算が可能となります。


取得費の計算でよくある誤り

取得費の計算では、いくつかの誤りが生じやすい点があります。最も多いのは、譲渡費用として計上すべきものを取得費に含めてしまうケースです。たとえば、不動産売却時の仲介手数料は譲渡費用であり、取得費には含めません。また、建物の管理費や修繕積立金については、所得費に含められないので気をつけましょう。

もし申告時にこのような間違いをしてしまうと、税務調査の際に修正申告が必要となる可能性が高く、これは余計な手間と時間がかかるだけでなく、場合によっては追加の税金を支払う恐れがあるため注意が必要です。そのため、所得費の計算を行う際に不明な点がある場合は、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。


取得費の調べ方・計算方法

取得費の調べ方・計算方法

取得費を正確に計算するには、不動産購入時の資料が欠かせません。主な調べ方と計算方法は以下の通りですが、それぞれの方法には特徴があり、状況に応じて最適な方法を選択するようにしましょう。


購入時の資料による確認

不動産の取得費を調べる最も確実な方法は、購入時の資料を確認することです。売買契約書や領収書、登記簿謄本、固定資産税の納税通知書などが、重要な証拠書類となります。

たとえば、売買契約書からは土地・建物の購入価格の内訳が確認できるだけでなく、仲介手数料や契約書作成費用なども把握できるでしょう。また、登記簿謄本からは所有権移転の時期や登記費用を確認可能です。

購入時にローンを組んでいる場合は、金融機関での融資関連書類も重要な資料となります。住宅ローンの契約書や返済明細書には、物件の取得価額が記載されていることが多く、取得費を証明する有力な証拠となるでしょう。


概算取得費による計算

購入時の資料が見つからない場合は、「概算取得費」を使用することができます。これは売却価格の5%を取得費とみなす方法であり、計算式は以下の通りです。
概算取得費 = 売却価格 × 5%
たとえば、5,000万円で売却する物件の場合、概算取得費は250万円と求められます。この方法は計算が簡単で、税務署でも広く認められている方法です。ただし、実際の取得費よりも低く算出される可能性が高く、その結果、譲渡所得税の負担が増える恐れがある点に注意が必要です。


市街地価格指数を用いた計算

より正確な取得費を算出するには、市街地価格指数を用いる方法があります。この方法では、購入時と売却時の地価の変動を考慮して取得費を推計します。
土地の取得費 = 売却価格 × (購入時の市街地価格指数 / 売却時の市街地価格指数)
この方法は、特に地価の変動が大きい地域や、保有期間が長期にわたる物件で有効です。たとえば、バブル期に購入した物件の場合、概算取得費方式では実際の取得費を大きく下回ってしまうケースがあるものの、市街地価格指数を用いることで、より実態に近い取得費を算出できます。

ただし、市街地価格指数を用いる場合は、いくつかの注意点があります。地域によって地価の変動に差があるため、できるだけ対象地域に近い地区の指数を使用することが必要であるほか、特殊な立地条件や個別の事情がある場合は、それらを考慮した補正が必要です。


標準建築価額による計算

建物の取得費を計算する際、特に中古物件の場合は標準建築価額を用いる方法が効果的です。この方法では、建物の構造や築年数に応じた標準的な建築価額を基に取得費を算出します。

計算の手順は以下の通りです。
  1. 対象建物の築年数を正確に調べる
  2. 建物の構造(木造、鉄骨造、RC造など)を確認する
  3. 該当する標準建築価額の単価を決定する
  4. 単価に床面積を掛けて建物の取得価額を算出する
たとえば、築25年の木造住宅で床面積が100㎡の場合、標準建築価額が15万円/㎡とすると、建物の取得費は1,500万円と計算できます。この方法は、特に建物部分の取得費の内訳が不明確な場合に最適でしょう。

なお、所得費の計算を間違えてしまうと、必要以上に税金を支払ってしまう恐れがあります

取得費の正確な計算は譲渡所得税の適切な算出につながるため、可能な限り正確な方法を選択することが欠かせません。不明な点がある場合は、税理士や不動産の専門家に相談することをおすすめします。


取得費不明のケースは多い?

取得費不明のケースは多い?

取得費不明のケースは、実際にかなり多く発生しています。特に以下のような状況で取得費が不明になりやすい傾向があります。


相続物件の場合

相続物件における取得費の確認は、特に困難な課題といえます。被相続人が購入した金額が取得費となりますが、多くの場合、その金額を確認することは容易ではありません。たとえば、被相続人が数十年前に購入した物件の場合、当時の契約書や領収書が適切に保管されていないことが多々あるほか、突然の相続によって書類の保管場所が分からなくなってしまうケースも見られます。さらに、被相続人が生前に複数回の引越しを経験している場合、書類が紛失してしまっていることも珍しくないでしょう。

このような状況下では、取得費の特定が極めて困難となり、結果として概算取得費を使用せざるを得ないケースが増えています。相続前から計画的に書類を整理し、取得費に関する情報を確実に引き継ぐことが大切です。


長期保有物件の場合

長期保有物件では、時間の経過とともに取得費を証明する書類が失われていくリスクが高まります。特に昭和27年以前から所有している物件については、当時の取引慣行や記録管理の方法が現在とは大きく異なるため、適切な資料が残されていないケースがほとんどです。また、保有期間中の災害や引越し、書類の劣化などにより、重要な資料が失われてしまうケースも多いでしょう。 このような長期保有物件の場合、不動産鑑定士による取得時点での評価を活用するなど、代替的な方法で取得費を算出することをおすすめします。


贈与された物件の場合

贈与された不動産の取得費の確認は、独特の難しさがあります。税法上、贈与された不動産の取得費は贈与者の取得費を引き継ぐことになる一方で、この情報の伝達が適切に行われていないケースが多く見られます。特に贈与時期が古い場合、贈与者自身が取得費を把握していないことも少なくありません。また、贈与者と受贈者の間で取得費に関する情報が十分に共有されていなかったり、贈与手続きの際に取得費の確認が見落とされてしまったりすることもあるでしょう。 このような状況を防ぐためには、贈与手続きの際に、取得費に関する資料も合わせて引き継ぐことが重要です。


記録管理の不備

不動産の取得費に関する記録管理の不備は、思わぬ税負担増加につながる可能性があります。多くの場合、購入時には将来の売却を具体的に想定していないため、関連書類の保管が疎かになりがちです。また、書類を保管していても、自然災害や引越し、書類の整理などの際に誤って処分してしまうケースも見られます。

特に問題となるのは、取得時の諸費用の記録です。不動産取得税や登録免許税、仲介手数料など、取得費として認められる費用の領収書や明細書が保管されていないことが多く、結果として取得費を過小に見積もることになりかねません。このような事態を避けるためにも、購入時から計画的な記録管理を行うことを心掛けましょう。


取得費不明で概算取得費とする場合

取得費不明で概算取得費とする場合

取得費が不明な場合の対応方法として、法令で認められている「概算取得費」の制度があります。これは、取得価額を証明する資料が見つからない場合などに利用できる救済措置です。ただし、安易に概算取得費を選択すると、必要以上の税負担が生じる可能性があるため、慎重な判断が必要です。


概算取得費の計算方法

概算取得費は、売却価格の5%を取得費とみなす方法です。計算式は非常にシンプルで、以下の通りとなります。

売却価格が5,000万円の場合の計算例
概算取得費:5,000万円 × 5% = 250万円
譲渡費用:150万円(仮定)
譲渡所得:5,000万円 – (250万円 + 150万円) = 4,600万円
譲渡所得税等(20.315%):4,600万円 × 20.315% = 934万円

このように、概算取得費は計算が簡単で、税務署でも広く認められている方法です。ただし、実際の取得費よりも低く算定される可能性が高いため、結果として譲渡所得税の負担が増えることがあります。


注意点

概算取得費を選択する際は、以下の注意点を十分に理解しておく必要があります。

一度概算取得費で申告すると、後から実額計算への変更は原則としてできません。特に昭和50年以降に取得した物件については、実際の取得費が売却価格の5%を大きく上回っているケースが多く、概算取得費の選択が納税者にとって不利になる可能性があります。

また、取得費には本来、不動産取得税や登録免許税、仲介手数料なども含めることができますが、概算取得費を選択するとこれらの費用を別途加算することはできません。そのため、安易な選択は避け、十分な検討が必要です。


取得費の証明

概算取得費の選択を検討する前に、まずは取得費を証明できる可能性を探ることが大切です。

売買契約書や不動産取得税の納税証明書、登記費用の領収書など、取得時の支払いを証明する書類があれば、それらを取得費の証明として使用できます。また、住宅ローンを利用した場合は、金融機関での融資関連書類も有力な証拠となるでしょう。

不動産の取得時期が比較的新しい場合は、これらの書類が見つかる可能性が高いため、概算取得費を選択する前に、まずは資料の探索を行うことをおすすめします。仮に全ての資料が見つからなくても、一部の資料だけでも取得費の証明として認められるケースも見られます。

なお、相続や贈与で取得した不動産の場合は、前所有者の取得費を引き継ぐことになるため、前所有者の関連書類を探してみる価値はあるといえるでしょう。


取得費不明で推計取得費とする場合

取得費不明で推計取得費とする場合

取得費が不明な場合、不動産鑑定士による評価を活用して「推計取得費」を算出する方法があります。この方法は、概算取得費(売却価格の5%)と比べてより実態に即した取得費を算出できる可能性が高く、結果として大きな節税効果が期待できます。

推計取得費の算出では、過去の取引事例や路線価の推移、市街地価格指数などの客観的なデータを用いて、取得時点での不動産の価値を評価します。特に昭和50年以降に取得した物件については、概算取得費よりも有利な金額となる可能性が高いため、積極的な検討が推奨されます。


事例1:東京都内の自宅売却での大幅節税

昭和59年3月に取得した東京都内の自宅土地を相続後、令和5年10月に8,000万円で売却したケースです。申告担当の税理士から不動産鑑定士に相談があり、購入時の土地の価格を調査。不動産鑑定士の評価により、取得時の価格を5,000万円と算定しました。

概算取得費方式では取得費が400万円(売却価格の5%)となり、譲渡所得税等が1,523万円発生する計算でしたが、不動産鑑定士による評価額を採用することで、譲渡所得税等は589万円まで圧縮。結果として934万円もの節税効果が得られました。


事例2:相続後の自宅売却での全額還付

父が昭和62年に取得した自宅を、令和4年4月に2,500万円で売却したケースです。当初、税務署から概算取得費での申告を指導されましたが、不動産鑑定士に相談したところ、当時の土地の評価額を3,500万円と算定しました。

概算取得費方式(取得費125万円)では464万円の譲渡所得税が発生する計算でしたが、不動産鑑定士の評価額を採用することで譲渡損が発生し、譲渡所得税はゼロとなりました。税務署の指導通りに申告していれば、不要な税負担が生じていたケースです。


事例3:更正の請求による税金の還付

父が平成15年1月に取得した自宅を相続後、令和3年4月に1,860万円で売却したケースです。当初は取得費不明として概算取得費(93万円)で申告し、345万円の譲渡所得税を納付しましたが、不動産鑑定士による評価で取得時の価格が2,220万円と判明しました。

更正の請求を行った結果、評価額が認められ譲渡損が発生。納付済みの譲渡所得税が全額還付されました。このケースは、一度概算取得費で申告した後でも、適切な評価額があれば更正の請求が認められる可能性があることを示しています。


推計取得費活用のポイント

推計取得費の活用には、いくつかの重要なポイントがあります。まず、購入時期が昭和50年以降の物件では、概算取得費より高額となる可能性が高いため、不動産鑑定士への相談を検討する価値があるでしょう。

また、一度概算取得費で申告した後でも、適切な評価額があれば更正の請求が認められる可能性があります。ただし、評価の信頼性を確保するため、実績のある不動産鑑定士に依頼することが大切です。


取得費不明の場合の相談先は?

取得費が不明な場合、専門家への相談が欠かせません。相談先によって得られるアドバイスや解決方法が異なるため、状況に応じて適切な専門家を選ぶことが大切です。特に高額な物件の場合、適切な相談先の選択が数百万円規模の節税につながることもあるでしょう。

相談先としては、税理士、不動産鑑定士、税務署が代表的です。税理士は税務全般のアドバイスを、不動産鑑定士は取得時の適正価格の算定を、そして税務署は基本的な申告方法の確認を行います。ただし、税務署の場合は概算取得費での申告を推奨されることが多いため、より有利な申告方法を検討する場合は、税理士や不動産鑑定士への相談がおすすめです。


沖田不動産鑑定士・税理士・行政書士事務所について

沖田不動産鑑定士・税理士・行政書士事務所について

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不動産売却で取得費不明の場合には



取得費不明の場合の対応は、売却価格や物件の取得時期によって大きく異なります。以下のポイントを押さえ、最適な方法を選択することを心掛けましょう。

まず、可能な限り取得時の資料の収集に努めましょう。売買契約書や登記関係書類、ローン関連書類など、取得費を証明できる資料がないか徹底的に探すことが第一優先です。

資料が見つからない場合は、概算取得費(売却価格の5%)と推計取得費(不動産鑑定士による評価)のどちらが有利か検討します。特に昭和50年以降に取得した物件については、不動産鑑定士による評価を検討する価値が高いといえます。

また、すでに概算取得費で申告済みの場合でも、適切な評価額があれば更正の請求により税金が還付される可能性があります。常に柔軟な対応を心がけ、必要に応じて専門家に相談することで、適切な解決策を見出せるでしょう。

最後に、将来の売却に備えて、不動産取得時の資料は確実に保管しておくことをお勧めします。相続や贈与の際にも、取得費に関する情報を確実に引き継ぐことで、将来の不動産売却時のトラブルを防ぐことができます。