いつも当レポートをご愛読いただきありがとうございます。 今回は前々回に引き続き、信託を利用した相続対策の活用例の一つをご紹介いたします。
名義預金の概要
贈与は民法549条で、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思表示をし、相手方がこれを受諾することによって効力が成立すると書かれています。したがって相手方(子や孫)が財産をもらったと認識していない場合には、贈与は成立しません。また財産をもらっている場合には、もらった側は自由に使えるのが当然ですが、子や孫は知らないので、使えるはずはありません。そのような時は、名義預金と判断されます。 上記のケースの場合も、子や孫はお金をもらっていることを知らないことから贈与されていないということになり名義預金とされ、結局父親や母親、祖父や祖母の財産であると判断されてしまいます。実務では、名義預金と判断した場合には、元の所有者の通帳に戻してもらい、そのうえで名義預金口座を解約してもらっています。対策
では、どのようにしたら生前贈与として有効なものになり、また、子や孫が将来お金が必要になったときに使えるようになるのでしょうか。 その方法としては、信託の活用です。【信託の概要】については、前々回のオフィスレポートVol.143を参照していただければと思います。 今回は登場人物としてお金を渡そうとしている祖父と、お金を将来もらう孫とします。具体的な活用方法としては、財産の所有者(委託者=祖父)が、それらの財産を預かる者(受託者=祖父)とし、財産を将来受け取る者(受益者=孫)と設定します。いわゆる「自己信託」の形をとります。 次に信託法88条2項では、受託者(祖父)は、受益者(孫)に、遅滞なく、受益者となったことを通知しなければならないとありますが、別段の定めがあるときは、その定めるところによる、とあります。つまり、信託契約書(信託行為)の作成の際、信託契約書に通知しないということを別段の定めとして記載することによって、孫に知らせることなく、受益者を孫にすることができます。このように設定することで、祖父の財産を税務上の所有者として孫の財産とすることになり、名義預金として判断される可能性を低くすることができます。さらに、祖父の財産を減らすことができ、結果として祖父の相続税対策となります。 この際の留意事項としては、受益者である孫は受益者であることを知らないため、本来は受益者である孫が贈与税申告をしなければいけないところ、孫は知る由もないため、代わりに受託者である祖父が贈与税申告をしなければいけない点です。さらに贈与税の申告者は本来孫ですので、孫のお金から贈与税を払う必要があります。贈与税を支払うために、祖父のお金から支払うと、さらに別の贈与税が発生してしまう可能性がありますので注意が必要です。
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